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漆器とは?日本古来の工芸品の特徴と技法について



長持ちし、使えば使うほど漆(うるし)の深みや味わいが出て来る漆器。意外に「漆器って何?」と尋ねられると、はっきりと答えられない方も多いのではないでしょうか。


漆器は、日本で古くから生活に密着してきた日本の工芸品です。世界中で多くの人を魅了している漆器の特徴や技法について、詳しく見ていきましょう。


漆器とは?

漆器とは、木や紙などに漆を重ねて塗った工芸品の事です。漆器は名称に器と付くものの、ご飯や汁物などを入れる器だけに限らず、箸や箸入れなど漆を塗って仕上げた物を全般的に漆器と言います。


漆は乾燥するととても固い膜になります。漆を何層にも重ねて製作された漆器は、傷などに強いだけでなく、耐水性や耐熱性なども高くなり長く丈夫に使えるのが特徴です。また、漆が生み出す深みある美しい色合いも特徴のひとつです。


日本には多くの漆器の産地があり、津軽漆器のある青森県や輪島塗の石川県、紀州漆器の和歌山県などが有名な産地です。


漆器は英語でjapanと呼ばれる

欧州では日本の漆器の美しさに敬意を表し、 japan lacquerやjapanと呼ばれることがあります。 いずれの言葉もjapanが入りますが、古くから欧州に輸出されていた日本製の美しい漆器は多くの欧米人の心をとらえ、西欧人から敬意を表して「Japan」と呼ばれていました。


12,000年前の遺跡より出土された漆器

遺跡などの発掘から、日本では古くから漆器が使われていたことが分かってます。 中でも福井県の鳥浜貝塚より発掘された漆器は、年代測定の結果12,000年前の物だったとされています。


日本において漆器はとても歴史が古く、古来から日本の生活と密着してきたことが遺跡からの出土で分かってきました。


平安時代初期の皇族である惟喬親王(これたかしんのう)が現代にも受け継がれている漆工芸の技術を考案したといわれています。福井県には惟喬親王を祀った漆器神社があり天井には見事なうるし絵が描かれています。


古来は木に漆を塗った木工製品の漆器でしたが、現代では木の他にプラスチックなどの合成樹脂で作った樹脂製の漆器もあります。


漆器に塗られる漆ってどんなもの?

漆は6月~10月に漆科の木に傷をつけて乳白色の樹液を採取します。漆の木は日本以外にも韓国や中国など広く分布していますが、漆の主成分である「ウルシオール」の含有量が高い日本の漆が上質です。


漆は、防虫効果や防腐性の効果があり、熱や湿気にも強いという特徴があります。漆が塗られた漆器は、年十年も使い続けられるほど丈夫です。


漆器の乾燥方法

一般的に乾かすというと温度や湿度が高めのところで乾燥させるというイメージがあると思いますが、漆は温度が24~28度、湿度が70~85%が最も乾きやすいとされています。

そのため、梅雨の時期になるとよく乾きます。夏場など乾きにくい時期もあるため通常は 「漆風呂」という乾燥室で乾かします。


漆の色について

漆は、採取した樹液をろ過して顔料を混ぜて色を作ります。漆の色は、天候や顔料の量で色の出方が違うので、全く同じ色を作るのは難しいと言われています。


よく見かける漆器の色は黒や赤の漆ですが、最近では技術が発達して多くの色を作れるようになりました。


漆の色について詳しく知りたい方は「漆には色が付いていない!?顔料で様々な色ができる」をご覧ください。

漆器の素地の種類は主に2種類

漆器には木で製作された木工製品の他、プラスチックなどの合成樹脂で作られた樹脂製の素地(漆を塗る下地となる物)があり、素地によって漆器の特徴が変わります。

素地ごとに漆器の特徴をまとめました。


天然木から製作される木工品は保温性や断熱性に優れる

天然の木から作られる木工品は、木のぬくもりや保温性・断熱性にも優れ、熱いものを入れても持ち手に熱が伝わりにくい特徴があります。

木工製の漆器は、中でも欅(けやき)の素地でできた漆器が最高級品とされています。 日本有数の漆器である輪島塗は、上塗りの前に生漆と米糊、焼成珪藻土を混ぜた下地を何層にも塗り重ねて製作することで、より丈夫な漆器となっています。


合成樹脂は変形しにくく安価なのが特徴

ABS樹脂などの合成樹脂の素地から製作される漆器は、木工品に比べ外部環境の影響による変形に強く、大量生産も可能なため安価に作れるのが特徴です。


漆器の表面に模様を施す装飾技法

漆が重ねて塗られた漆器はそれだけでも美しいですが、乾燥した漆の上にさらに装飾を施し、より豪華で美しく仕上げる技法もあります。


金銀朱色の粉で模様を作り出す蒔絵(まきえ)

漆が塗られた漆器の表面に金や銀、朱の粉を蒔いて模様を作ります。蒔絵が施されることで、より豪華な漆器として仕上がります。


蒔絵は元々は、大名が使う道具を豪華に仕上げるのに使われた技法でもありますが、現在でも漆器に蒔絵を施した物が多くあります。


貝殻を用いて模様を作り出す螺鈿 (らでん)

特殊な貝殻を漆器表面にはめ込むようにして装飾を施すのが螺鈿の技法です。漆と貝殻の天然素材の持つ色のみで表現される螺鈿は、まさに息を飲む美しさです。 螺鈿には主に2つの方法があります。


・嵌入法(かんにゅうほう) 漆を施した表面を模様に沿って彫り、彫った部分に貝片をはめ込む形で製作していくのが嵌入法。 ギターなどに用いられるアバロン貝などを使ったインレイにも似た技法です。


・付着法(ふちゃくほう) 漆を施した表面に貝片を置き(漆で付着させ)、貝片の高さまで漆を盛って研ぎ出す技法。 装飾が施された漆器はその美しさから、高い芸術性をほこる漆器として高額な物が多いです。


漆器と合成漆器について

漆器は、家庭用品品質表示法に基づいて品質表示が義務付けられています。品質表示には「品名」「素地の種類」「表面塗装の種類」が表示されています。


「品名」には「漆器」や「合成漆器」と表示されていると思います。「素地の種類」が木で「表面塗装の種類」が天然の漆で塗られたものは「漆器」、「素地の種類」が木製以外のプラスチックなどに「表面塗装の種類」がウレタン塗やカシュー塗のものは「合成漆器」と表示されます。


天然漆器を買いたいという方は、品質表示をチェックして木製で漆塗と表示されているものを選ぶと間違いないでしょう。


漆器のお手入れ方法

漆器は、柔らかいスポンジでサッと水洗いしましょう。長時間水に浸しておくのは良くありません。汚れがついている場合は、10分程度水に浸けてからぬるま湯で洗うと良いでしょう。

合成漆器は、他の食器と同じように中性洗剤とスポンジで洗うことができます。


3つの漆器名産地がある石川県

日本には、全国に漆器の産地があります。中でも、で有名な石川県は、「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と言われる3つの漆器の産地がある漆器の名産地です。


漆器の中でも最高級品とされ、丈夫さに重きを置いた輪島塗のほか、加賀百万石の藩主にちなんで発展した、加賀蒔絵とも呼ばれる豪華な漆器の金沢の蒔絵。木目が縦に入る珍しい縦木取りと横木取りを作品に応じて使い分け、より木地の素の美しさを追求した山中漆器と、石川県は三種三様の漆器の産地があります。


日本漆器協同組合連合会で漆器情報を詳しく知ることができる

全国の漆器産地の活動情報を掲載しているのが、日本漆器協同組合連合会です。 日本漆器協同組合連合会のインターネットサイトでは、津軽塗や江戸漆器、輪島塗など日本の漆器産地17の組合の情報を掲載していますので、漆器について詳しく知りたい方はサイトをチェックされると良いでしょう。


日本漆器協同組合連合会 http://www.shikki.or.jp/


日本古来の漆器の美しさに触れてみよう

古くは1万2,000年も前から既に日本に存在したとされる漆器。歴史の古さに驚きですが、現在では食べ物の西洋化もあって日常生活では漆器を目にする機会もずいぶんと減ってきました。 漆器は漆を塗って仕上げた状態でも十分に美しいですが、蒔絵や螺鈿などの装飾が施された漆器の豪華な美しさに、きっと魅了されることでしょう。

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